BALMUDA Phone
開発ストーリー

それは創業前。私がまだ、ロックスターを目指していた頃から始まる物語。
家電メーカーと呼ばれるようになったバルミューダが、なぜスマートフォンを作ったのか。
そこには、ある秘めた思いがありました。ロングストーリーをご紹介します。

バルミューダ代表取締役社長
兼 チーフデザイナー 
寺尾 玄

ポケットには千円

あれは1990年代の終わりごろ。当時、ミュージシャンだった私は、髪を染め、ジャージを着て、ハードなサウンドにラップを乗せて、ロックスターを目指していました。バンドのリハーサルに向かうために電車に乗り、バスに揺られ、ポケットには千円もあれば良い方です。

そんな毎日の中で、私は様々な本を読み漁っていました。その中でも心を貫かれたのが、パーソナルコンピューター創世記の物語。シリコンバレーで活躍する巨人たちを描いた一冊です。様々な人々の協業によってアーパネットが開発され、やがてインターネットへと進化する話。ATARIでアルバイトをしていた青年スティーブ・ジョブズがやがてアップルという会社を興し、その最初の製品は、ただのPCボードだったこと。ゼロックスパロアルト研究所で最初のGUIが発明されたこと。マウスとポインターの発明。

高度な演算能力を持ちながらも、文字列でのコマンドと回答しか表示できなかったコンピューターが、絵画的な描画をすることになり、世界中の端末同士がつながっていく物語でした。それは発明のオンパレードであり、昨日できなかったことが、今日はできるようになる、目まぐるしい変化の連続です。あの時代の、あの現場に居合わせた人々は、その眩しすぎる進化に心をときめかせ、興奮していたことでしょう。私はバスに揺られながら、彼らが羨ましいと、心から思いました。

20年越しの恋人

あれからおよそ20年の時がすぎました。その間、私の人生にもさまざまな出来事がおこり、ロックスターになる夢をあきらめ、バルミューダという会社を興し、何度も倒産の危機を乗りこえてきました。

2020年の正月の休暇。私は自宅でひとりで考えていました。かつてはロックスターを目指した私です。彼らは世界中のファンに愛され、一つのフレーズで人々の不安を取り去り、希望を与えていました。どうせ働くなら、彼らのように輝いてみたいですよね。時は今。そう。やりたかったことを、する時なのです。コンピューターを作りましょう。20年越しの恋人に会いにいくのです。そしてなんと、その恋人は、手のひらサイズになっていました。

いつかは作ってみたいと思っていたコンピューター。いざ自分が手がけようとした時、それはスマートフォンに進化していました。これほどまでに小さくなり、私たちの生活に密着するものになっているとは。以前の私には想像できていませんでした。

20年越しの恋人に会いに行きたいという想いとは別に、私にはスマートフォンを作るべき明確な理由が二つありました。その一つは、現在のスマートフォンが画一的で、選択肢が少ないと長年感じてきたこと。そしてもう一つの理由は、今のスマートフォンが大きすぎること。画面が大きい方が便利なのは理解しますが、もはやポケットに入りません。

コードネームはKYOTO

コンパクトで、個性的で、エレガントなスマートフォンを作ろうと思い立ちました。私は自分で線を描きはじめ、十数年ぶりにデザイナーに復帰しました。最初に考えたのは、背面は曲面で構成されているべきだろうということ。年中持つものが、どのような形状をしているべきか、力を抜いた時の私たちの手のひらを観察すれば明らかです。

一方で、スマートフォンの表の面はガラス。この平面から、いかにして曲面に切り替わっていくのか。京都のお寺にあるような、くり抜かれた石に水が張られた情景を思い浮かべました。緊張感のある水面が有機的な形状に包まれている様ですが、それをどうやって、この小さな世界で表現すればいいのでしょうか。

開発コードネームが「KYOTO」と名付けられたデザインの旅は、1年に及ぶことになります。その間に、手作りで丹精こめて作ったデザインモックアップは80個以上。このままではダメだと思う一週間を過ごし、週末に解決策を思いつくことが何度もありました。中でも、ディスプレイの外形をわずかな曲線で構成するという案はデザイン上のブレイクスルー。

BALMUDA Phone のデザインには、直線が一箇所もありません。途中からエンジニアリングが併走し始めると、今のままでは数々の部品が入らないことが分かり。目指した緊張感と優雅さを保ちつつ、どうやったら体積を増やすことができるのか。。。クイズの連続です。

これらをクリアしてできあがったのが、BALMUDA Phone。今の私たちにできる最良のデザインです。デザイン作業をする度に思うことは、それは創作というよりも、探索に近い、ということです。つまり、宝探しのようなもの。どこかにあるはずのお宝を求めて、彷徨う私たちデザイナーは永遠の迷子なのでしょう。

それを着て
街を歩く方が

スマートフォンが提供する体験のうち、その9割は画面の中で起きること。それらを円滑で上質な体験にするためには、基本的なアプリを独自に開発する必要がありました。

中でも最も多くの開発工数をかけたのが、ホーム画面です。スマートフォンは生活の中で私たちのアイデンティティを保証する道具であり、重要なハードウェアです。

これを表現するため、その背景は、各国のお札やパスポートから着想を得た、堅牢性を感じるデザインとしました。この上に自分のイニシャルや名前を乗せ、アイコニックなストライプを好きな色から選べば、自分だけのスマートフォンとして使うことができます。

私たちの人生、たいていの重要なことは、画面の外で起こります。好きな服を見つけて買うよりも、それを着て街を歩く方が重要です。そのとき、どんなものを手に持っているべきでしょうか。個人的には、BALMUDA Phone をおすすめしたいと思います。

終わりに

テクノロジーの大きな流れは、多く、とても多くの人々が協業したり、競争することから生み出されます。しかし今回、私は、この文章を書きながら、ある特定の人物を思い出さずにはいられませんでした。

パーソナルコンピューターの民主化、音楽や映画の新しい視聴方法の定着、スマートフォンを世界に提供すること。もし、彼がいなければ、きっと他の誰かが、それをしていたのでしょう。

しかし、それらが、あくまでも私たち人間が使うものだと考え、人々にとって重要な芸術的な価値を付与することができたのは、彼だけだったのだと思います。このテキストの最後に。彼に最大の敬意を表します。故・スティーブ・ジョブズ氏に。